Little AngelPretty devil 
       〜ルイヒル年の差パラレル

       “当然のように…”

         *お兄さんが高校生篇でお送りいたします。



九月に入り、暦の上よりもっと現実的な話、
生活のリズムだの行事だののあれこれが、
“秋”のモードへきっちり突入したっていうのにね。
虫の声がするにも関わらず、
残暑なんてなレベルじゃあない“酷暑”は続き。
はっぴー何とかで
連休を増やしたことが仇となったか、
運動会の予行演習を炎天下にて敢行した小学校で、
児童がばたばたと倒れる事態が続発。

 『どこだったか中東の方の国じゃあ、
  気温が30度を越したら休校になるって
  聞いたことがあんぜ?』

ましてや日本は湿気もばかにならない気候だから、
同じ気温でも不快指数がこれまた違う。
サウナみたいな中に、
特に何かするでない見学や待機の方が多いまま、
2時間も3時間も居続けろってのは、
一体どんな説教だ、JRの日勤何とかか…なんて。
微妙に子供では思いつけないような、
そんなおっかない言いようを並べていた
子悪魔さんを迎えにと、
蛭魔さんのお宅までやって来ていたのが、

 「あら、葉柱さん。」

チャイムに応じ、
玄関先まで出て来られたお母様が、
にっこりとお顔をほころばせるほどに
顔馴染みのお兄さん。
賊徒学園高等部のアメフト部をまとめておいでの
葉柱主将で。
人並みはずれた長身だし、
微妙に鋭角で
険のある眼差しは、まだ十代とは思えぬ気迫を飲み、
スポーツだけで鍛えたとは思えぬ
がっつりと屈強にして精悍な肢体は
大型バイクの傍らにあっても重厚さでは見劣りしないほど。
…でありながらも、
そこはお付き合いの長さが物を言ってか、
コロコロと和やかに笑ったそのまま、

 「早かったですか? 迎えに来たんすけど。」

 「いいえぇ、お待ちしておりま……」

おりましたのよと
続けかかったお母様のお声が、

 「いい加減にしろよな、こんのクソ親父がよっ!」

 「何だ何だ、その言い草は。」

丁度の間合いで頭上から降って来た、
幼いお声と大人のお声との
なかなか過激な掛け合いに遮られてしまう。
喧嘩腰以外の何物でもない文言だが、
不思議と…ご近所の皆様も、
ああまたやってるなという感慨の、
むしろ何とも微笑ましいというお顔になるから、
そこのところは葉柱も不思議だったのだが、

 『何たって
  長いこと不在だったお父さんですからね。』

 『ずっといい子で居続けてたヨウちゃんだもの、
  思い切りの手放しで甘えたくなったって
  仕方がないわ。』

大人の側のお声が落ち着いているから
というのもあろうが、
それ以上に…猫っかぶりの上手な意地っ張り坊や、
もっとずっと幼いころから見守って来た周囲の皆さんには、
重々真っ当に理解されておいでだということならしい。

  そういった
  周辺事情はともかくとして。

今日は、
明日からの連休の間を、
葉柱のお兄さんが率いるチームの調整と、
いよいよの正念場に差しかかってる秋大会の、
日曜に予定されてる ン回戦の観戦&コーチング、
それからそれから、
それへは当然勝つとして
リセット&翌日の反省会までの一通り。
水も漏らさず ばっちりとこなすべく、
お兄さんチでのお泊まりを計画していたもんだから、
しかもしかもそんな計画があることを、
このギリギリの直前、
金曜の午後までお父上へは黙っていたもんだから。

  そりゃまた
  面白い仕打ちをしてくれるじゃないかと

せっかくの連休なのに、
まま日曜の試合はしょうがないかと折れるとしても
その前後は坊やと目一杯遊べると
思っていたのに…という憤懣が、
にこやかな余裕のお顔の陰に
しっかと潜んでおいでなようで。

 「どうせ雨になりそうなんだから、
  今週は諦めて
  来週の連休を押さえとけばって
  言ったのだけど。」

そっちは
坊やのほうへも打診してあって。
ちょっと不服そうにしちゃあいたが、
さすがに…お母様からのお願いには
逆らえないななんて顔を
してたのにねと。
くすすと微笑った
そのお顔には、

 “…うあ、
  何かこういうところは、
  しっかりお母さんから
  引いてねぇか、あいつ。”

他意はなさげながら、
それでも…
人を丸め込むのに必要な
愛らしさとでも言いましょうか。
隅から隅までお父さんにしか
似てないとされてる坊やだが、
屈託なくうふふと微笑ったお母様の笑顔に、
何か見つけちゃった
葉柱のお兄さんのその真上から、

 「ルイっっ!」

からりとサッシの開く音がし、
ジョイント部分の緩みのせいか、少々きしみを響かせつつ、
アルミ製の物干しへ出てくる足音が続いたかと思ったら。
まずは小ぶりのボストンバッグが降って来て。
真っ直ぐな落下だったので苦もなく受け止めたそのまんま、
見上げた階下の二人の視野へと入ったのが。
その柵へひょいと身を乗り出しながら、
手摺りにあたる部分へ片足を引っかけてる小さな影。

 「…何やってるかな。」

ギョッとした葉柱を続けざまに驚かせたのが、

 「ヨウちゃんっ、
  危ないから玄関から出なさいっ。」

そちらさんも驚いていてか、
微妙な発言をなさったお母様だったのは
ともかくとして。(う〜ん)
薄手のパーカーに、
下には恐らくTシャツと半ズボン。
こういうことを見越していたか、
しっかとスニーカーをはいたあんよで、
楽々と柵を乗り越えたそのまま、

 「ルイっ!」

もう一声ほど怒鳴った坊ちゃんへ、

 「…っ!」

反射的に…
ぴょ〜いっと
足元から飛び降りて来たのを、
タイミングよく
受け止めてしまった
お兄さんだったのは、
ややお約束っぽかった
パターンじゃああったが。

 『いやいや、
  実際にこなすのは なかなか難しいことだぞ?』

よっぽど呼吸が合ってなきゃあ、
捕まえ損ねる危険も大きいこと。
たまたま窓から見ていたという
近所のご隠居が感心し、
通りがかりのおばさまが、
まあまあまあと眸を丸くしていたようだったけれど。
そんなスリリングな突発事が起きた住宅街で、
次の間合いに響き渡ったのが、


  「馬鹿ルイっ! 危ないだろうがよっ!」

  …………………はい?


そりゃあよく通る幼いお声が紡いだのは、
怖かったようでもなければ
手を貸してくれてありがとうでもない、

 「俺は“どけっ”て言ったつもり
  だったんだがなっ。」

 「何だとぉ?
  いきなりあんな危ないこと敢行しやがって、
  打ち合わせもなしにこなせたことへ
  感激するならともかくだなっ。」

 「うっせぇなっ!
  明後日は大事な試合だってのに、
  腕とか腰とか傷めたらどうすんだっ!」

 「そっちこそ、
  着地に失敗してたら
  足の2、3本は
  やられてたかもだぞ!」

 「残念でした、
  俺の足は二本しか
  ねぇんでな。」

 「足の骨ってのの
  言い間違えだ、
  そんくらい察しやがれ。
  こんの、妙なとこンばっかり
  頭回るクソガキが。」

過激に文句の応酬をしながらも、
片やは手渡されたヘルメットをかぶると、
ベルトをきっちりと顎へと通しており。
もう片やは片やで、
渡されたバッグをシート下の物入れへ
手際よく突っ込んでおり。
蓋のシート部をバタンと閉じると、
そのまま後部の補助シートへ坊やを抱えてまたがらせ、

 「それじゃあ、
  3日ほどお預かりしますので。」

 「ええ。
  ヨウちゃんもいい子でいるのよ?」

 「おおっ♪」

任せとけと
片方の腕を振り上げたのを合図のように、
ゼファーのエンジンがイグゾーストノイズを吹き上げ、
そのまますんなりと
発進してゆく段取りの善さよ。

 「あ、間に合わなかったか。」

遅ればせながら玄関から飛び出して来た
お父様はといえば、
そこまで往生際悪く引き留めたかったのでもないようで。

 「あら、それ。」

ただならぬレベルでの
給水率抜群な特殊な布でこさえたらしい、
気化熱利用の“涼しいバンダナ”を
手にしており。

 「まあ、似たようなものは
  たんと持っても
  いるんだろうが。」

気の強そうな
切れ長の目許や鋭角な面差し、
日本人離れした金の髪に、
発光しているような白い肌、
しゅっと絞られた
細身な肢体なところ などなどと。
今から十分、
あの坊やがそっくりになること
想定出来そうな面立ちのお父上。
苦笑をしたまま、
肩をすくめた夫へ向けて、

 「残念とお思いなら、
  合宿所へ宅配で送るという手も
  ありますことよ?」

うふふと
屈託なく微笑ったお母様の言へ、
何を思いついたやら、
ポン、と
手のひらをこぶしで叩いたお父さんだったのは、
残念、
もはや見ることの出来なんだ
トウガラシ坊ちゃん
だったりしたのでした。





   〜Fine〜  11.09.16.


 *何のこっちゃなお話で、すいません。
  連日余りに暑くて集中しにくい今日このごろです。
  一番最初に思いついたのは、名を呼ばれたルイさんが、
  それを“退いて”とは理解せず、
  あっさり受け止める行動に移ったことで。

  「え〜? それって奇妙なことかなぁ?」

  進さんも同じようにすると思うよ?

  ………。(頷、頷)

  てぇ〜い、
  そこの規格外カップルは
  黙ってらっしゃい…などという、

セナくんたちと桜庭さんの
お呑気な会話が続きそうです。(笑)

ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv 

ご感想はこちらへ


戻る